死ぬことなかったのにな

高校で、2年生のときだけ一緒のクラスで、それほど仲がよかったわけではないんだけれど、
3年になってクラスが違ったということもあり、すれ違えば挨拶はする程度になってしまって
そんな関係のクラスメートがいた。

彼は学祭のときに、映画作りに燃えていて、一緒に手伝った記憶がある。
妙にのめり込むタイプの人間だった。
確か自宅に遊びに行ったことがある。
何をしたか、何を話したのかは覚えていないが、おもちゃのようなシンセサイザーがあったのを覚えている。
へーいいな、としゃべった記憶がある。

私は勉強しなかったので、めでたく浪人生となり、彼は現役で地方の大学に行った。
来年はなにがなんでも大学に行かなくてはいけないので勉強しなければならず、申し訳ないが彼のことは忘れていた。
そんな風にして過ごしてきた冬、私は持病の喘息がでてしまって予備校を休んだ日に、耳を疑うようなことを聞いた。
彼が下宿で死んだというのだ。

喘息で体がしんどくて、彼のお通夜にも葬儀にも参加できなかった。
今にして思えば、いや事実を認めたくないという思いから、出たくなかったという気持ちもあったんだと思う。

それから30年近く経った。
夜中にへんな夢を見て、それから突然彼のことを思い出した。

死ぬことなかったのにな

最近、高校時代の友達と会うようになった。
あのときみせてもらったシンセサイザーは、パソコンで簡単にできるようになった。

いろいろ大変なことも多いけど、でもそれなりに生きていれば楽しく暮らせたのだろうけど。